【重要作品】ベルリオーズ:幻想交響曲

ベルリオーズが幻想交響曲を作曲した当時、この作品は全くもって異形の交響曲と言うべきものでした。全5楽章には、それぞれにベルリオーズの個人的体験(シェイクスピア女優ハリエット・スミッソンに対する熱烈な恋愛とその挫折)の反映ともいえる物語的性格が付与されており、幻想的とも妄想的ともいえる様相を呈しているからです。
「恋に破れ人生に絶望した若い芸術家が自殺を図りアヘンを飲むが、アヘンの量が致死量に達せず、若い芸術家は重苦しい眠りの中で奇怪で幻想的な夢を見る。夢の中で恋人を殺した芸術家は断頭台の露と消えるが、死後の世界での魔物の饗宴の中に醜悪な姿になったかつての恋人の姿をみつける。」

前期古典派の時代に誕生して以来、絶対音楽の最たるものであったはずの交響曲は、幻想交響曲が初演された1830年の6年前の時点において、ベートーヴェンの交響曲第9番によってシラーの詩「歓喜に寄す」が歌詞に用いられることにより、思想性をも表現し得るジャンルとなっていました。しかしながら、ベルリオーズの幻想交響曲では、全く個人的な体験とそれに伴う感情の表出がなされるに至ったのです。
こうした表現についての指向性の変化こそが、古典派とロマン派を分かつものであると思いますが、それが明確に顕在化した事例として幻想交響曲は音楽史上の重要な意味を持った作品となったのです。

幻想交響曲はまた、恋人を表す固定楽想(イデー・フィクス)を全編に用いることにより、物語的性格をより一層強めていますが、これは後にワーグナーが用いた示導動機(ライト・モチーフ)にも通ずるものです。ワーグナーは自らが創始した楽劇を、従来のオペラとは全く異なり、ベートーヴェンの交響曲第9番の発展形、すなわち交響曲に文学的な要素と舞台芸術の要素を統合したものであると考えていたとすると、ベルリオーズはベートーヴェンとワーグナーの芸術を中継する位置にいる作曲家でもあるということができるかもしれません。

【参考音源】

ガーディナー指揮によるオルケストル・レヴォルショネール・エ・ロマンティークによる演奏が、私のファーストチョイスです。ピリオド楽器による演奏であり、現在ではチューバで代用されることが多いオフィクレイドを用いるなど、作曲された当時の響きの再現が試みられています。改良されて滑らかに音が出るようになったモダン楽器による華麗な演奏とは異なるゴツゴツとした味わいは、素朴であるともグロテスクであるとも言えます。音楽の運びそのものはガーディナーらしく洗練されたものであるので、音色の面白さが一層引き立っています。



セカンドチョイスとしては、歴史的な名盤として定評のあるミュンシュ指揮によるパリ管弦楽団の録音です。パリ音楽院管弦楽団が再編されてパリ管弦楽団が発足した直後ということもあり、現在の演奏水準と比較すればやや荒っぽいところはありますが、色彩的で情熱的な演奏となっています。ガーディナーの録音が古典的であるとすると、ミュンシュの演奏はロマン的と言えるのではないかと思います。
posted by バニラ at 08:34 | TrackBack(0) | 重要作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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