【重要作品】J.S.バッハ:管弦楽組曲

ヨハン・セバスチャン・バッハが作曲した<管弦楽組曲>は、全部で4曲存在しており、それぞれに特徴のある「組曲」となっています。4曲のうちで最も伝統的な様式感を持った明朗な第1番、実質的にはフルート協奏曲とも言える程にフルートが活躍する荘重な第2番、3本のトランペットによる華麗な序曲と厳粛なエールとの対比が印象的な第3番、そして祝祭的で躍動的な娯楽性に富んだ第4番。いずれも曲の冒頭には、全体の3分の1近くを占める長大な序曲が置かれ、その後に5曲程度の舞曲を中心とした小品が続きます。これら4曲の作曲時期については、あまり正確には特定できていないのですが、ケーテン時代からライプチヒ時代初期ではないかと考えられています。

バロック音楽の特徴の一つが、国ごとの様式感を強く意識した点にあります。特に「組曲」は、ドイツ起源の「アルマンド」、フランス起源の「クーラント」、スペイン起源の「サラバンド」、イギリス起源の「ジーク」の4つの舞曲を対比的に聴かせる点で、その特徴を強く表しているといえます。
しかしながらバロックも後期に至り、バッハの時代になるとこうした従来の様式も形骸化していたようであり、バッハの管弦楽組曲においては、この舞曲の組み合わせを持つものは1曲もありません。むしろ、曲の冒頭に置かれた「緩−急−緩」からなる、リュリが創始した「フランス式序曲」に始まり、「ガヴォット」、「ブーレ」、「メヌエット」といったフランス発祥の新しい舞曲が多数採用されている点に、バッハの管弦楽組曲の特徴を見ることができます。これは、分化的先進地であったフランスの様式を積極的にバッハが取り入れようとしていたということの表れであり、この時代の文化的な関係性の反映という点でも興味深いものであると思われます。

バッハの管弦楽組曲は、ヘンデルの<水上の音楽>や<王宮の花火の音楽>などとともに、バロック時代の管弦楽組曲の掉尾を飾ることになりますが、これ以降、管弦楽による組曲という形式は、ソナタ形式の台頭に伴い、その役割の重要性を減じていくこととなるのです。

(参考音源)

私のファーストチョイスは、1979年録音のトレヴァー・ピノック指揮イングリッシュ・コンソートによるものです。ピリオド楽器によるものとしてはかなり初期の録音になりますが、序曲における「緩」と「急」のコントラストの鮮やかさ、そして活き活きとしたテンポで奏でられる舞曲の軽やかさは、今聴いても非常に新鮮です。素朴ながら柔らかい木綿の肌触りにもたとえられる音色の魅力もピリオド楽器ならではです。



セカンドチョイスには、現代楽器による演奏としてカール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管弦楽団によるものを挙げます。世評の高いものとしては、カール・リヒター指揮のものがありますが、ミュンヒンガーのものの方が大らかな雰囲気があり、私はこちらの方を好んでいます。全体にゆったりとしたテンポにのって、現代楽器ならではの艶やかな音色を活かしながら、いにしえの雅を偲ぶような風情が感じれる演奏です。

posted by バニラ at 22:06 | 重要作品 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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