現代音楽概観

ヨーロッパの楽壇が第1次世界大戦後の世相を反映したことにより、ある種の反動的な傾向として古典主義的な様相を呈していたのに対し、第2次世界大戦の時期は台頭してきたファシズムが反体制的とみなす芸術家への迫害に及びました。そのため多くの音楽家も亡命や潜伏を余儀なくされ、結果として音楽家の自由な創造力に基づいた活動が抑制されてしまいました。
世界大戦の終結はこの重苦しい状況を一変させ、若い世代を中心とした実験的・前衛的な音楽活動が活性化することとなりますが、こうした活動の中心となったのがドイツのカールハインツ・シュトックハウゼン、フランスのピエール・ブーレーズ、イタリアのルイジ・ノーノの3人です。彼らはシェーンベルクら新ウィーン楽派やオリビエ・メシアンらからの影響を受けつつ、音高だけでなく音価・音色・音の強弱までも音列化したトータル・セリー、収録した非楽音を編集・加工して音楽に用いるミュジック・コンクレートなどの実践により、ヨーロッパ楽壇における前衛芸術の時代をリードする存在となりました。

彼らより少し若い世代では、クシシュトフ・ペンデレツキが音の塊とも言えるトーン・クラスターを駆使して全く新しい音響の世界を創り出すなど、この時代には新たな技法の開発が絶え間なく続けられることとなりますが、こうしたヨーロッパの音楽家の活動に一石を投じることになるのが、ジョン・ケージらアメリカの芸術家の活動です。ケージは東洋思想や禅の精神を学ぶうちに、楽音以外の自然音に耳を傾けることの面白さや音楽が必ずしも作曲家の意図したとおりに聴衆に聴かれているわけではないことへの気づきを通して、独自の音楽思想を育んでいました。そうした思想の結実が、音符の選択を易経などの占いに委ねたり、星座盤上に任意に五線を書いて星を音符に見立てたりするなど、作曲家の意図を介在させない偶然性に基づいた音楽の創出です。こうしたケージの試みは、あくなき新技法の開発に行き詰まりつつあったヨーロッパの作曲家に大きな衝撃を与えることとなったのです。

作曲家が音楽の各種パラメーターを厳密に管理するトータル・セリーの手法と、作曲者の意思を介在させない偶然性による音楽とは、その目指す方向は両極端ながら、そこで奏でられる音楽はどちらも超難解なものとなってしまいました。こうして戦後の前衛音楽家の思想とその音楽が一般聴衆の理解の範疇から大きく乖離してしまったことへの反動として、1960年代の中ごろからポストモダンの動きが活発化してゆくこととなります。スティーブ・ライヒやフィリップ・グラスらのミニマルミュージックは、調性への回帰とポップな感覚を併せ持った音楽により一般聴衆へアピールしたのに対し、アルヴォ・ペルトやヘンリク・グレツキらは中世の宗教曲を思わせる静謐で瞑想的な音楽によって「癒し」音楽のブームを創り出しました。

21世紀の現在、グローバル化の進展と価値観の多様化によって西洋芸術音楽の主流が何であるのかが見定めがたくなっています。さらに新しい表現方法の開拓を目指す前衛的音楽なのか、それともポストモダンの流れを受け継いだ癒しの音楽なのか、あるいは芸術文化の大衆化の流れの中でポピュラーミュージックへと取り込まれて消えていく運命にあるのか?音楽芸術の歴史に残る作品が今世紀にも生まれるのかどうかは、我々聴き手がどのような音楽の聴取を選択するのかに懸かっているのかもしれません。
posted by バニラ at 17:45 | TrackBack(0) | 現代 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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